射出成形(インジェクション成形)dictionary

射出成形(インジェクション成形)とは?

射出成形の原理は、加熱筒(シリンダー)内のスクリューによって可塑化、混練された溶融樹脂(ポリマーメルト)を任意の形状に加工した金型中に高速、高圧で充填させた後、冷却、固化または反応、硬化させて製品とする成形方法である。熱硬化性プラスチックの射出成形法の基本は、大部分熱可塑性プラスチックのそれと重なる。大きな相違点は成形中に急速な硬化反応を起こさせるため金型温度を高く保ち、また、流動性保持のために加熱シリンダを100℃以下の低温に保つことぐらいである。一方、熱硬化性プラスチックの射出成形法を他の成形法と比較した場合、最も類似しているのはトランスファ成形法であるが、高周波予熱の代わりにスクリュシリンダ中で加熱混練を行う点が異なっている。これに伴い、材料の可塑化・計量を同一場所で行うことができる。成形過程の自動化が容易になるという利点が生まれる。また、より高圧で金型内への注入を行うため、摩擦熱により材料温度が急上昇し硬化時間が短縮されるのも射出成形法の長所である。これらの利点と、この成形法に適した各種の成形材料が市販されたことから、射出成形法は急速に普及し、現在では熱硬化性成形材料の7割程度はこの方法で成形されている。また、材料ロスを少なくできるランナレス成形法やスプルレス成形法などの技術が開発されている。

射出成形(インジェクション成形)の成形材料

 熱硬化性射出成形材料としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミドなどがあるが、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂は充てん材の配向問題や硬化特性の点で問題があり、実用例はあまり多くない。

射出成形(インジェクション成形)の成形機

 成形機自体は熱可塑性プラスチックの場合とほとんど変わらないが、シリンダ内での材料の早期硬化を避けるため、スクリュの構造に若干工夫がなされている。すなわち、摩擦熱の発生をできるだけおさえるため、通常圧縮比1:1にし、またL/D(スクリュ有効長さLとスクリュ径Dの比)が通常12~18程度と小さく設計されている。

射出成形(インジェクション成形)の成形操作

 射出成形法では、ホッパからの材料の供給-可塑化-計量-(型閉じ)・射出-硬化-(型開き)・成形品取出し、の一連の操作を繰返す。注意すべき点は、材料の可塑化・計算が射出の直前に完成するように設定し、材料の熱履歴を少なくすることである。

成形条件と成形品の品質

 良好な連続成形を行うには最適成形条件を設定し、しかもそれを確実にコントロールしなければならない。制御すべき要因としては、シリンダ温度、スクリュ回転数、スクリュ背圧、金型温度、射出圧力、射出時間、保圧時間などが挙げられる。それらは各成形材料ごとに異なり、また、成形条件が適切でないと高品質の成形品が得にくいので、条件設定にあたっては材料メーカーと相談するのが望ましい。

シリンダ温度

 シリンダ温度は、滞留した材料の早期硬化を防ぐため低目に設定し、しかもシリンダ後部から前部にかけて徐々に高くなるように温度勾配をつける。一般にノズル部、シリンダ前部、後部のそれぞれを別々に温度制御できるようになっている。

スクリュー回転数

 スクリュー回転数が高いほど計量時間は短くてすむが、摩擦熱の発生により材料温度が高くなり早期硬化を招く恐れがある。従って、通常50pm程度に低くおさえ、シリンダ壁からの伝熱で温度制御できるように設定しなければならない。

スクリュ背圧

 前述のようにスクリュの圧縮比が1程度に設定されているため、そのままの状態では毎回の可塑化量にバラツキが大きくなる。従って、計量を確実に行うためスクリュに背圧をかけるが、一般にその値は数十万Pa程度が適当である。あまり高い背圧をかけると、ノズルから材料が押出される“鼻たれ”現象を起こす。

射出圧力と射出時間

 熱硬化性成形材料の可塑化時の流動性は熱可塑性プラスチックに比べて低く、金型充てんには一般に100MPa近い高圧を必要とする。しかし、金型内では摩擦熱の発生により材料温度が急上昇するので流動性が増し、バリが出やすくなる。このため、射出直後より低圧(保圧)への切替えが必要である。また、高圧高速で金型内に充てんされた場合、成形材料中の木粉やガラス繊維などの繊維質充てん材が配向し、寸法安定性、機械的性質などに悪影響をおよぼすことが多い。こうした配向現象は、ゲート断面積が小さいほど、また、射出圧力や射出速度が大きいほど著しい。従ってその軽減のため、成形条件ばかりでなく金型の設計や成形品のデザインにも十分注意を払う必要がある。

硬化温度と硬化時間

 硬化温度(金型温度)と硬化時間は互いに関連しており硬化温度に合せて硬化時間を設定する。ただし、成形材料により適切な硬化温度範囲があるので、その範囲内に設定すべきである。一方、成形品の厚みも硬化時間に影響するが、熱硬化性プラスチックでは発熱反応の影響もあり、成形品の厚みが増してもそれほど硬化時間を長くとる必要はない。

BMC射出成形

BMCは通常の粉末状成形材料とは異なり、パテ状であり、かつ長繊維充てん材料である。従って、BMCは通常の射出成形機では困難であり、専用の射出成形機により成形される。BMC射出成形機に要求される特徴としては、①折損が少ないこと、②計量精度が良いこと、の2点を挙げることができる。いずれもスクリュデザインがポイントで、混練よりも計量のみを目的とし、回転数が低くとも計量が早く完了できる構造となっている。また、スクリュではなくプランジャ式射出装置も用いられている。材料の供給は、ホッパ式ではなく、プランジャで加圧供給できるようになっている。長繊維充てんであるため、キャビティ内での繊維の配向現象が成形品の物性に大きく影響する。従って、金型の設計においてはゲート、ランナの位置などに留意する必要がある。

射出圧縮成形法

 射出圧縮成形法は、従来から熱可塑性プラスチックにも適用され、例えばアクリル樹脂製レンズなどの製造に利用されてきた、これを熱硬化性プラスチックに適用すれば、繊維質充てん材の配向問題を解決することができ、寸法安定性の良い均質な成形品が得られる。また、あまり大きな成形圧力を要しないので、大型品の成形も可能である。本法は1個取り大型品の成形には適したものであるが、多数個取りやインサートものの成形には不向きである。

射出成形(インジェクション成形)の材料ロス削減技術

 熱硬化性プラスチックの射出成形においては、スプルやランナ部の材料が成形品とともに硬化するため、スクラップとなり材料ロスの程度は成形品の大きさや取り数によって数%から80%程度まで大幅に変わる(平均20%程度)。近年、省資源の観点から材料ロスの削減技術が実用化している。

スクラップの再利用

 一度成形され硬化したスプルやランナなどを粉砕してバージン材料に混合し、再利用する方法である。既に硬化して流動性のなくなったものを混合するので、混合比率には限界があるが、成形品の諸性能をあまり低下させることなく10~20%程度の混合は可能である。スクラップの粉砕・混合用の専用装置も市販されている。

スプルレス成形技術

 スプル部の材料ロスを削減する方法で、ロングノズル式とコールドブッシュ式とがある。ロングノズル式は、金型内部までノズルを延長し、スプルをなくしてしまう方法である。コールドブッシュ式は、スプル部をブッシュに置き換え、この部分だけ独立して温度制御し低温に保つことができるようにしたものである。ロングノズル部およびブッシュ部の材料は硬化せず、次のショットで金型内に打込まれるのでこの部分の材料ロスが削減できる。

ランナレス成形(ウォームランナ成形)技術

 スプル部だけでなくランナ部も低温に保ち、この部分の材料ロスを削減する方法である。スプル、ランナ部とキャビティ部の間に断熱板を入れ、それぞれ別々に温度制御できるようにしたものである。削減率はスプルレス成形に比べ大幅に向上するが、特別な金型と温度制御装置が必要であり、経済性が問題となる。また、ランナ部の材料温度は高くなりがちであり、通常の射出成形材料よりも低温時での硬化速度の遅い材料を必要とする。また、完全なランナレスではないが、マルチノズルを用いた射出成形装置も開発され実用化されている。

射出成形用金型

 熱硬化性プラスチックの射出成形用金型は、熱可塑性プラスチック用のものと類似している。ただし、熱硬化性成形材料は一般に金型を摩耗させやすく、また、金型は高温で使用されるので、摺動部の摩耗も起こりやすいなどのことを考慮して、通常、加工後焼入れした金型を用いている。金型は射出された溶融樹脂に所望の形状を転写した後に、これを冷却、固定する重要なツールである。基本的に雌雄二つの型より構成され、その合わせ面に切削加工された流路(入り口より順にスプル、ランナ、ゲート)を通じて、製品部であるキャビティに溶融樹脂が充てんされる。キャビティ形状が転写されて製品となるため、最も厳しい加工精度が要求される。

金型構造

基本構造(2プレート金型)

 一般に射出成形用金型は、固定型、可動型の2体から成っている(2プレート金型)。その合わせ部をパーティングライン(分割面)と言う。キャビティなどの流路は、このパーティングライン面に加工される。流路を型板に直接加工する直彫り方式と別部品に加工してはめ込む入れ子方式があるが、加工のしやすさや鋼材選択の自由度の点で有利な後者が多く採用される。箱型製品では、雄型(コア)は可動型に、雌型(キャビティ)は固定型に加工される。これは冷却に伴う樹脂収縮により成形品をコア(可動型)に密着させることによって、成形機の突出し装置を利用した自動突出しを容易にするためである。固定型/可動型の芯出しはガイドピンおよびガイドピンブッシュの嵌合により行うが、より精度を必要とする場合にはテーパー状の位置決めピンが用いられる。大型、深物製品の場合は、いんろう構造(くさび構造)を持つ金型設計にすることが特に有効である。成形機の可動側ダイプレートにある油圧ロッドが突出し板(エジェクタプレート)を押出すと、連動した突出しピン(エジェクタピン)が製品をコアから離型する。この一連の突出し装置は、型締め時にリターンピンがパーティングライン面に当たることにより押し戻される。金型には温度調節用の冷却水溝が設けられ、一定温度の水を循環させる。スプルは複数のプレートを貫通するので、通常、ブッシュで一体化される。その外周部に取付けられたロケートリングは、成形機のノズルと金型入口の位置出しを行うためのものである。

突出しスリーブ、ストリッパプレート

 これは、薄肉製品や深物製品のように、突出しピンを用いた離型では変形・破損しやすいような場合、あるいはピンの跡が製品に残ると困る場合などに用いられる突出し装置である。突出しスリーブは各キャビティの底面に設置するが、ストリッパプレートは、複数の製品を1枚の板で同時に突出することができる。どちらも突出しピンに比べて広い面積で、製品底面全体を突出すのが特徴である。

3プレート金型(自動ゲートカット)

 基本的な2プレート金型では、不要なランナやスプルが製品と一体で取出されるため、二次加工によりゲートを切断しなければならない。成形の合理化を目的としてゲートの自動切断を可能にしたのが3プレート金型である。固定側型板の可能側型板の間にあるプレートにサブスプルが加工され、その先端に小孔状のゲートを持つ。これをピンポイントゲートと言う。構造上、二つのパーティングラインが存在し、時間差を設けてこれらを開くことにより、ピンポイントゲート部を自動的に切断することができる。まず、パーティングラインが開き、成形品とランナが分離される。次にチェーンに張力がかかると中央のプレートが引張られてパーティングラインが開くが、ランナはロックピンで固定されているので固定側に残る。最後に、ストップボルトを介してストリッパプレートを前進させるとロックピンが外れ、ランナとスプルを取出すことができる。

割型(アンダーカットの処理)

 側面に空孔あるいはリブやネジ部を持つ成形品などでは、それらがアンダーカットとなるため通常の金型では取出すことができない。そこで、このアンダーカット部分を別の部品で加工し、型開き時にこれを横方向に移動させることによって離型を可能にした金型が用いられる。この金型を割型と言い、移動コアのことをスライドコアあるいはサイドコアと言う。スライドコアの作動には、斜めピン(アンギュラピン)を用いるのが最も一般的な方法である。

内面ネジ金型

 スクリュキャップのように製品の内側にネジ部を持つ成形品は、割型を用いても離型できない。この場合は、ネジを切ってある内側のコアを回転させて抜く方法を用いる。油圧シリンダの力をラック・ピニオン方式で回転運動に変換する方法や、太陽歯車と固定ナットを用いて型開き力を応用する方法などにより、コアを回転させる。

金型設計の基礎

スプル、ランナ、ゲートなどの流路設計

 成形機のノズルからキャビティに至るまでの流路は、スプル、ランナ、ゲートで構成されており、各々の寸法や配置は使用する樹脂や製品形状に依存している。

スプル

 スプルは金型の入口に相当する円錐型流路で、ノズルと直接接触する部分である。通常は金型本体と別個の部品として加工、組立てられ、スプルブッシュと呼ばれる。金型中で最も高い射出圧力を受けるので型開きの際に離型が困難にならないように、必ず円錐のテーパを2~4°程度にする。さらに積極的にスプル部分を抜くためには、アンダーカット部を持つスプルロックピンを用いる。このピンにより確実にスプルを可動側に取れるようにする。金型内の圧力損失が大きいので、スプルはなるべく短く設計する。

ランナ

 ランナは、スプルから流入した樹脂を各キャビティに分岐させ、バランス良く導く流路である。材料損失を少なくし、冷却時間を短縮するために断面積は充てん不良を起こさない範囲でできるだけ小さく設計するのがよい。多数個取り金型を用いることにより生産性は飛躍的に向上するが、樹脂の状態がキャビティごとにばらつきやすくなるため安定成形は難しくなる。従って各キャビティに樹脂が同時充てんするようにゲートバランスをとらねばならない。原則的には、キャビティまでの流動長を同じ設計にすることが望ましいので、ランナやゲート寸法に分布をつけてゲートバランスをとる。ランナの断面形状に関しては、円形、半円、台形などの種類がある。円形が流動抵抗を最も小さくするが、固定型と可動型の両面に切削加工しなければならない。台形ランナは一定のテーパ(2~5°)のエンドミルを用いて切削深さを調節できるので、ゲートバランスのための断面積の微調整が容易となり、用いられることが多い。

ゲート

 ゲートはキャビティの入口である。最も簡単なゲートはスプルがキャビティに直結している場合で、これをダイレクトゲートと言う。しかし、一般的には、ランナからキャビティに流入する樹脂を制限するために断面積を小さく絞り込んだものを言う(制限ゲート)。これは、①ゲート跡の仕上げを容易にする。②コールドスラグや異物の混入を防ぐ、③短時間で固定化させて成形サイクルを短縮する。④多数個取り成形でのゲートバランスを微調整する。などの機能を持っている。

製品形状などに応じて、以下に示すような種類のゲートが用いられる。

  • サイドゲート……製品部側面に設けられ、ランナよりも断面積の小さい矩形のゲート、加工・修正が最も容易なので、通常このゲートを採用することが多い。ただし、幅広の平板成形品などではジェッティングやウエルドラインを生じやすく、また、均一充てんが困難である。
  • ファンゲート……平板状の成形品に適するのがこのファンゲートである。サイドゲートで生じやすい成形不良を防ぐためにゲート幅を扇状にして幅広く取り、樹脂の流れを円滑にしている。
  • フィルムゲート……フラッシュゲートとも言う。これも薄肉の平板成形品によく採用される。特に、成形品表面の精度向上や変形などを防ぐために、ゲート幅を成形品幅と同じにして深さを浅くしたものである。
  • リングゲート……円筒状の成形品などではその外周に環状のゲートを設ける。これをリングゲートと言う。ランナとは反対側に生じるウエルドラインやコア倒れを防止するために、筒頂からの均一な流れを可能にする。ただし、後加工はやや面倒となる。
  • ディスクゲート……リングゲートとは逆に円周に設けた円板状のゲートで、リングゲートよりも均一な流れをつくりやすい。
  • トンネルゲート……サブマリーンゲートとも言う。製品突出し時にランナと製品を切り離すことができる。サイドゲート同様に製品側面に加工するが、パーティング面から斜めに彫り込まれ、文字どおりトンネルのようにキャビティに通したゲートである。確実にゲートが切断するようにゲート径を絞り込んでいるため、圧力損失や耐久性の点で問題がある。成形品の裏側にゲートを設ける方法としてトンネルゲートにより突出しピンを利用して、そこに二次ランナを通す構造にすることも多い。
  • ピンポイントゲート……3プレート金型で用いられる細孔状(孔径0.5~1.5mm)のゲート。自動ゲートカットが容易で、ゲート跡の仕上げが最もきれいである。また、複数のゲートから樹脂を充てんする多点ゲート金型の採用が容易である。多点ゲートは、バンパなどの大型成形品で発生しやすい充てん不良や、PPなどの結晶性樹脂で発生しやすいソリの改善に効果がある。
エアベント

 金型内の空気あるいは樹脂からの発生ガスは、通常、型の分割面やエジェクタピンの間隙から排出される。しかし、高速射出などでは排気できなかった空気が樹脂の金型充てんに伴って断熱圧縮され急激に発熱し、これにより樹脂の熱分解、焼け不良を招くことがある。このようにトラブルを回避するために、あらかじめ空気の巻込みが予想される箇所にエアベント(ガス抜き)と呼ばれる排気溝を設ける必要がある。

冷却設計

 射出成形品の冷却は、金型に加工した冷却管に温水または冷水を循環させて行われている。その温度は樹脂の種類や製品への要求性能、あるいは成形サイクルを考慮して決定される。しかし、高品質製品を安定して得るためには単に一定温度の水を循環させるだけでは不十分であり、常に、均一な冷却状態が保たれるように金型設計の段階から最適な冷却管設計をしなければならない。冷却が成形品中で均一になると、成形品にひずみが生じて性能を低下させる。成形品肉厚に差がある場合は、それに応じて冷却管の間隔などにも分布を持たせ、厚肉部の冷却をより促進させる必要がある。冷却が問題になるのは深物製品の場合のコアである。コアは伝熱面積が小さいために温度が異常に上がりやすい。そこで、コア中に縦水孔を設けて水を循環させる。非常に小型のコアの場合は穴加工が難しいので、ベリリウム銅などの熱伝導率の高い材料を型材として用いるとよい。

製品設計――デザイン上の注意

肉厚

 製品肉厚は材料コスト、樹脂の流動性、製品性能に大きな影響をおよぼす因子である。残留応力による物性低下や金型の加工限度を考慮すると、基準肉厚は1.5~3.5mm程度とするのがよい。また、製品各部における肉厚は均一になるように設計するのが原則である。剛性を持たせるために肉厚を大きくすると、ヒケが生じやすくなり、冷却時間も長くなるので、リブを設けたほうが効果的である。

抜き勾配

 製品側面には離型抵抗を低減するために抜き勾配(テーパ)をつける。原則的には1~2°が適当であるが、最小でも0.5°は必要である。エンボス加工面やガラス繊維充てん材料のように側面が粗面になる場合は、4°程度の大きめの勾配とする。

コーナーアール

 応力集中による強度低下を防ぐために、コーナー部には適切なアールをつける必要がある。実用に支障がなければコーナーアールは大きいほど効果的である。少なくとも凸側で肉厚の1.3倍以上、凹側で肉厚の0.3倍以上はアールをつけるとよい。

リブ

 リブは製品に剛性を付与する有効手段として多用される。しかし、リブの裏側にヒケが生じやすくなるので、設計にはいくらかの注意が必要である。高いリブを設けるよりも低いリブを多数設けたほうが効果的である。また、リブ先端では空気が抜けにくく焼けが生じやすいので、樹脂の流動方向に平行にリブを設計することにより改善を図ることが望ましい。

インサート

 インサート部品の回転や抜け防止のために、棒状のインサートではローレット加工を施したり、また、板状のインサートでは穴をあけたりする。インサートするボスの部分には熱膨張率の差によりひずみを生じるので、その厚みは少なくともインサート部品の直径程度にする。

ホットランナシステム

 成形後のスプルやランナは、粉砕して再利用されることもあるが、通常は廃棄されるだけで材料損失を招く。これを解決するために、ランナ部の樹脂を常に溶融状態に保つホットランナシステムが開発され、普及している。これはほかにも、ランナ部の樹脂の圧力損失が低下するので低圧成形が可能になる、ランナの冷却・固化を待つ必要がない成形サイクルを短縮可能である。キャビティ部の樹脂圧力制御の精度が向上する、などの様々な利点を持つ。

樹脂を溶融状態に保つ方法は、

  • ①樹脂固化層の断熱性応用
  • ②ヒータによる加熱法

がある。①の代表的なものにインシュレーテッドランナがあるが、使用する樹脂が限定され、また、高度な温度制御を行うことができないことから実用されることは少なく、市販のシステムはほとんど②のヒータによる加熱方式を主に採用している。典型的なホットランナシステムは、スプルから流入する樹脂が、取付け板と型板との間の空間に断熱材を介して挿入されたマニホールドと呼ばれるブロック中を通り、さらにホットノズルと呼ばれるサブスプルからキャビティへと流動する。スプル、マニホールド、ホットノズルの各ブロックは、ヒータにより高温に保たれている。システムは、熱が金型本体へ拡散しないように、断熱材を介して最小限の接触面積により金型本体から隔離されている。

また、熱膨張によって生じるブロック間の位置ずれも設計時に考慮されている。マニホールドは、内臓するヒータにより加熱されるが、ホットノズル(ホットチップとも言う)には幾つかの加熱方式がある。キャビティまでの距離が短い場合、あるいは通常のサブスプルと組合せた場合(スプル付きホットランナと言う)、熱伝導率の高い鋼材を用いるとマニホールドから伝熱のみでホットスプルを加熱できる。機構が最も簡単であるが、ゲートの固化が起こりやすく、応用範囲は限定される。これを改善するために、バンドヒータなどによる外部加熱方式と、ヒータを内蔵するトーピードを用いた内部加熱方式がある。前者は流路が比較的広く円滑なので樹脂流動の点では有利であるが、精密な温度制御の点では後者のほうが優れている。

ホットランナシステムのもう一つの利点は、ゲートの開閉を任意に制御できることである。スピアシステムは内部加熱方式の一種であるが、トーピードの先端(スピアヘッド)に小型で精密なヒータを持っている。これは応答性が高いので、成形サイクルに合せて温度の昇降を行うことができる。射出時には、温度を高めてゲート部の樹脂を溶融し、射出終了時に温度を下げてゲートを閉鎖できる。このようにゲートの開閉を制御することによって、精密安定成形が容易となる。さらに高度なシステムでは、空気作動ピストンを用いてピン状のバルブを機械的に開閉させるものもある。多数個取り成形において各キャビティへの充てんを完全に均一化することできるが、システムが複雑になり、金型コストも高くなってしまう。

射出成形(インジェクション成形)の金型材料

 金型は、成形品品質に多大な影響をおよぼし、しかもその製造コストが全生産コストの多くを占めるという点で非常に重要な要素となります。従って、材料選択も慎重に行わなければなりません。試作や特殊な小ロボット生産用として樹脂や低融点合金などが用いられることもありますが、一般には、強度、切削加工性、寿命などの点で炭素鋼や合金鋼などの鋼材が用いられることが多い。JISでは構成部品ごとに鋼材を指定しています。このように、使用可能な鋼材の種類は幅広く、種々の条件を考慮して最適な鋼材を選択します。一言で言えば、金型の信頼性や製品精度、大量生産を考慮した場合には諸特性に優れた合金鋼を用いるほうがよいが、そのような材料は一般に高価であり、しかも切削加工性が低いので金型費が高くなります。

金型用鋼材の種類と要求性能

 最も注意を払わなければならないのは、射出された樹脂に直接接触し、製品品質に多大な影響をおよぼす型板(固定側、可動側)の鋼材選択です。材料選択のポイントとして、①耐摩耗性、②鏡面磨き性、③被切削性、④熱処理性、⑤強度、靭性、⑥耐食性、などの性能が挙げられます。

  • 耐摩耗性……金型の寿命や精度、バリの有無などに関する重要な因子です。一般に硬さに比例するので、焼入れなどの熱処理により改善できます。
  • 鏡面磨き性……一般の鋼材では、ピンホールの存在や非金属介在物の含有などにより磨き性は大幅に低下します。より高い磨き性を求める場合には、真空溶解あるいは真空鋳造した専用の鋼材を用いなければならりません。結晶粘度を微細にすると磨き性が向上しますが、これにはモリブデン(Mo)、バナジウム(V)などが効果を持ちます。
  • 被切削性……被切削性が高い材料は短時間に切削加工できるので、製造コストを低減することができる。
  • 熱処理性……硬さを上げるための熱処理(焼入れ、焼戻しなど)に適した性能とは、処理効果の大きさだけでなく、処理によるひずみを少なくするために、空冷でも焼入れ可能なことや表面と内部の処理効果に差のないことなども含まれる。
  • 強度、靭性……射出成形のように高圧が加わる場合に強度が不足すると、割れが発生するなど問題となる。熱処理により強度は上がるものの脆くなる欠点があるので、靭性の高い鋼材を選択する必要がある。
  • 耐食性……PVC、フッ素樹脂、ABS樹脂、難燃剤添加材料のように腐食性ガスを発生する材料の成形では、この耐食性が重要である。

炭素鋼

 鉄と炭素(C)の合金である炭素鋼、すなわち機械構造用炭素鋼(S50C、S55Cなど、C量0.08~0.61重量%)あるいは炭素工具鋼(SK7など、C量が0.61重量%以上)は焼入れしない場合には硬さや耐久性などの性能は劣るが、被切削性に優れ、かつ安価なため、生産数が少ない場合、金型製作期間が短い場合、金型費用を安くしたい場合、高精度を必要としない場合、などに幅広く使用されている。通常、生産開始までに数回は要する金型修正が容易で便利ではあるが、型傷がつきやすく、バリや過充てんによる変形が心配である。この場合には、硬質クロムメッキを施したり焼入れ処理を行うことによって表面硬さを上げる。C量が増すほど焼入れによる硬さも高くなる。ただし、金型寸法が変化したり、形状が複雑な場合には、割れが生じることがあるので注意が必要である。

合金鋼

 炭素鋼にクロム(Cr)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)などの第3成分を添加し、耐久性や耐食性を付与した鋼材が合金鋼である。合金の添加量によって低合金鋼(合金工具鋼など)と高合金鋼(ステンレス鋼など)に大別される。これらは熱処理を行うことにより優れた硬さ、耐久性を示す。

〔出典 プラスチック読本、発行元(株)プラスチックエージ社〕

射出成形(インジェクション成形)の特徴

  • 成形サイクルが比較的短時間なので、大量生産に適する
  • 自動化技術が進んでいるので、品質が安定する
  • 複雑な形状の製品が成形可能で、二次加工が不要なので工程数の低減ができる
  • 他の成形方法と複合して新しい機能を持った製品ができる
  • 金型内の溶融樹脂流動が複雑なため、様々な成形不良が生じやすく、その対策にかなりの技術を要する
  • 成形機・金型などは、一般に高価であるため少量生産には適さない
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